この記事の要点
- 予知保全は、設備の状態をセンサで監視し続け、データから故障の兆候や故障に至る時期を予測して、壊れる前の適切な時期に保全する考え方。
- JIS Z 8115:2019 では、保全を 事後保全(フォールト検出後に修復)と 予防保全 に分け、予防保全に 時間計画保全(決まった間隔で行う)と 状態基準保全(状態の評価にもとづく)を含めている。予知保全は、状態にもとづく保全を「予測」まで進めた考え方として説明されることが多い。
- IoT では、加速度センサで振動を測り、特徴量を取り出し、正常時との違い(異常)を検知し、残りの寿命を見積もる、という流れになる。
- IoT中級では「IoTデータ活用技術(活用事例)」(25〜30%、2026年9月時点)に当たる。保全の種類の区別と、データの扱い方が要点。
- 独自の確認問題3問(全選択肢の解説つき)で確かめられる。
予知保全とは?一言でいうと
予知保全とは、設備の振動・温度・電流などをセンサで測り続け、そのデータから劣化の進み方や故障の兆候をとらえて、故障する前のちょうどよい時期に点検・交換を行う保全の考え方です。英語では predictive maintenance と呼ばれます。
故障してから直すと、ラインが突然止まって損失が大きくなります。反対に、まだ使える部品を決まった周期で早めに交換し続けると、部品代と作業の手間がかさみます。予知保全は、その間の「必要なときに、必要な分だけ」を目指します。
そのためには、状態を途切れなく測る IoT のセンサと通信、データから兆候を見つける分析の両方が必要です。設備を仮想空間に写して寿命を試算する使い方はデジタルツインとはで扱っています。
事後保全・予防保全・予知保全はどう違う?
保全の用語は、日本産業規格 JIS Z 8115:2019「ディペンダビリティ(総合信頼性)用語」で定義されています。JIS では、予防保全を「アイテムの劣化の影響を緩和し、かつ、故障の発生確率を低減するために行う保全」とし、その中に時間計画保全と状態基準保全(状態監視保全)があるとしています。事後保全は、フォールトを検出した後に、要求どおりの状態に修復するための保全です(2026年9月27日確認)。
「予知保全」という言葉の位置づけは資料によって少し違いますが、状態基準保全の考え方をさらに進め、データから故障の時期を予測して保全の時期を決めるものとして説明されることが多い言葉です。
| 方式 | いつ保全するか | 必要な情報 | 利点 | 弱点 |
|---|---|---|---|---|
| 事後保全 | 故障や不具合が見つかった後 | 故障の発生 | 計画の手間が小さい。止まっても影響の小さい設備に向く | 突然止まり、損失や二次被害が大きくなることがある |
| 時間計画保全(予防保全) | 決めた時間・回数・距離の間隔で | 稼働時間などの記録 | 計画が立てやすい | まだ使える部品も交換し、費用がかさむことがある |
| 状態基準保全(予防保全) | 測った状態が基準を超えたとき | 振動・温度などの状態の測定 | 実際の劣化に合わせられる | 測定の仕組みと基準の設定が必要 |
| 予知保全 | データから予測した故障の前の適切な時期 | 継続的な測定データと予測のモデル | 停止を避けつつ、交換を必要な分に絞れる | データの蓄積と分析の仕組み、予測の検証が必要 |
← 表は横にスクロールできます →
どの方式が常に正しいわけではありません。安価で止まっても困らない機器は事後保全、法令や安全のために周期が決まっている点検は時間計画保全、というように、設備の重要度と費用で使い分けます。
振動データから異常をどう検知する?
回転する機械(モーター・ポンプ・ファンなど)では、軸受の傷や軸のずれが振動の変化として現れることが多いため、振動データがよく使われます。流れを段階に分けます(当サイトの説明用の整理です)。
- 計測:加速度センサを設備に取り付け、振動を測る。温度や電流も合わせて測ることがある。
- A/D 変換:アナログの信号をデジタルの値にする。見たい振動の周波数の2倍より高い周波数で標本化(サンプリング)しないと、その成分を正しくとらえられない(サンプリング定理)。
- 特徴量の取り出し:振動の大きさ(実効値など)や、周波数ごとの成分(周波数分析)を計算し、データを小さくする。エッジで行えば通信量も減らせる。
- 異常の検知:正常なときのデータの範囲を学習し、そこから外れたものを異常の候補とする。しきい値を決める方法と、機械学習を使う方法がある。
- 寿命の予測:劣化の進み方から、あとどれくらい使えるか(残存寿命)を見積もり、保全の時期を決める。
- 保全と検証:予測にもとづいて保全を行い、実際の部品の状態と比べて予測の精度を見直す。
予知保全のデータ分析で注意したいのは、故障のデータがとても少ないことです。設備はほとんどの時間正常に動いているため、「故障」のラベルがついたデータを大量に集めて学習させるのは難しいことがあります。そのため、正常時のデータから外れたものを見つける異常検知(ラベルのないデータから学ぶ、教師なし学習の考え方)がよく組み合わされます。
加速度センサの仕組みは加速度・ジャイロ・地磁気センサの違い、サンプリング定理はA/D変換とサンプリング定理、教師あり・教師なし学習の違いは機械学習の種類で扱っています。
IoT中級ではどこで問われる?
IoTシステム技術検定 中級の公式ページに示された出題カテゴリのうち、「IoTデータ活用技術(AI、ビッグデータ分析、活用事例)」25〜30% に当たります(2026年9月27日確認)。センサやサンプリングの部分は「センサ/アクチュエータ技術と通信方式」(25〜30%)とも重なります。
公式テキスト『IoT技術テキスト 第4版』では、第3章「IoTデータ活用技術」に当たる範囲です。章とカテゴリの対応は当サイトの推定で、使っているのは目次の章名だけです。
4択の形としては、当サイトの作問の観点で次のようなものが考えられます(出題の傾向や頻度を示すものではありません)。
- 事後保全・予防保全・予知保全の説明として適切なものを選ぶ
- 予知保全に使うデータやセンサとして適切なものを選ぶ
- 故障データが少ないときの分析の方法を選ぶ
- 予知保全の効果や導入の課題として当てはまらないものを選ぶ
試験の形式はIoTシステム技術検定 中級とはへ。合格基準は公式に非公開です。
取り違えやすい点は?
| つまずき | 正しい整理 | 見分け方 |
|---|---|---|
| 予防保全と予知保全を同じだと思う | 予防保全には決まった間隔で行う時間計画保全も含まれる。予知保全は状態のデータから時期を予測する | 「一定の間隔」なら時間計画保全、「データから予測」なら予知保全 |
| 事後保全は常に悪い方式だと思う | 重要度の低い安価な機器では合理的な選択になる | 設備の重要度と費用で判断する |
| 予知保全ならセンサを付けるだけでよいと思う | データの蓄積・分析・予測の検証まで必要 | 「分析」「予測」「検証」があるか |
| 故障データを大量に集めて学習すればよいと思う | 故障はまれで、故障データは集まりにくい | 正常データ中心の異常検知を組み合わせる |
| サンプリングの周波数はいくら低くてもよいと思う | 見たい成分の周波数の2倍より高くする必要がある | サンプリング定理を当てはめる |
← 表は横にスクロールできます →
確認問題1:保全の方式の説明で正しいのは?
保全の方式に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 時間計画保全は、振動の値が基準を超えたときに部品を交換する方式である。
- 事後保全は、故障の兆候を予測し、壊れる前の時期に保全する方式である。
- 予知保全は、測定データから故障の時期を予測し、保全の時期を決める方式である。
- 状態基準保全は、稼働時間に関係なく、年に1回決まった日に行う方式である。
正解:3。予知保全は、継続的な測定データから故障の兆候や時期を予測し、それにもとづいて保全の時期を決めます。
1 は、測った状態にもとづく状態基準保全の説明です。2 は予知保全の説明を事後保全にすり替えています。事後保全は、フォールトを検出した後に修復する方式です。4 は、決まった間隔で行う時間計画保全の説明です。
確認問題2:故障データが少ないときの分析は?
ある工場のポンプは故障がまれで、過去の故障時のデータはほとんど残っていないが、正常に動いているときの振動データは大量にある。予知保全のための分析の進め方として、最も適切なものはどれか。
- 故障データが十分にたまるまで、分析は始めずに待つことにする
- 正常時のデータの範囲を学習し、そこから外れた状態を検知する
- 正常時のデータをすべて削除し、故障時のデータだけで学習する
- 振動データは使わず、ポンプの購入価格だけで交換の時期を決める
正解:2。故障データが少ない場合は、豊富にある正常時のデータから「正常の範囲」を学び、そこから外れたものを異常の候補として見つける異常検知の考え方が有効です。
1 は故障がまれな設備では、いつまでも分析を始められません。3 は数少ない故障データだけでは学習できず、豊富な正常データを捨てる理由もありません。4 は設備の状態を見ておらず、予知保全になりません。
確認問題3:振動を測るサンプリング周波数は?
モーターの軸受の異常で現れる、最大 2kHz までの振動の成分を正しくとらえたい。加速度センサの信号を A/D 変換するときのサンプリング周波数として、最も適切なものはどれか。
- 見たい成分と同じ 2kHz にそろえて標本化する
- 見たい成分の半分の 1kHz にして通信量を減らす
- 見たい成分の2倍を超える 5kHz で標本化する
- 見たい成分と関係なく 100Hz に固定して測る
正解:3。サンプリング定理により、とらえたい信号の最大の周波数の2倍(ここでは 4kHz)より高い周波数で標本化する必要があります。5kHz はこの条件を満たします。
1 の 2kHz と 2 の 1kHz、4 の 100Hz は、いずれも 4kHz 以下なので、2kHz の成分を正しく再現できず、別の周波数の成分と区別できなくなる(エイリアシング)おそれがあります。
確認問題のあとは何をすればいい?
保全の方式の問題は、選択肢の中の「いつ保全するか」の語(故障の後・一定の間隔・状態が基準を超えたとき・予測した時期)に印をつけると、すり替えを見つけやすくなります。
本番と同じ4択で、ほかのカテゴリと混ぜて解くなら、登録不要のIoT中級の無料お試し20問で全問の解説まで確認できます。
よくある質問
予知保全と CBM(状態基準保全)は同じですか?
近い考え方ですが、同じとは限りません。CBM(Condition Based Maintenance)は、測った状態にもとづいて保全することです。予知保全は、状態のデータから故障の時期を予測するところまで進めた考え方として説明されることが多く、CBM の発展形として扱う資料もあります。
予知保全に AI は必須ですか?
必須ではありません。振動の値がしきい値を超えたら知らせる、劣化の傾向を直線で延ばして時期を見積もる、といった方法もあります。データが多く、兆候が複雑な場合に機械学習が使われます。
IoT中級で予知保全は何問出ますか?
公式に示されているのはカテゴリ単位の比率だけで(「IoTデータ活用技術」25〜30%、2026年9月27日確認)、予知保全の問題数は公表されていません。
出典・参考
本番と同じペースで腕試し
記事の次は、本番形式の問題で。
公式の出題カテゴリの比率どおりに組んだ無料お試しを、登録不要・カード不要で解けます。続きの模試と章別ドリルは買い切りで、月額はかかりません。
あわせて読みたい
当サイトは、モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)とは関係のない個人が運営する非公式の学習教材です。掲載している問題はすべて当サイトのオリジナルで、実際の試験問題・過去問題・再現問題ではありません。試験の日程・受検料・出題範囲は公式サイト(https://www.mcpc-jp.org/license/ )で必ず確認してください。合格を保証するものではありません。合格の目安は当サイトの推定です。技術・制度の記述は「最終確認日」時点のものです。